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「一人でも多くのママが幸せに働けるように」。仕事と子育ての両立を目指す原点とは

「一人でも多くのママが幸せに働けるように」。仕事と子育ての両立を目指す原点とは

マムズラボ株式会社は、全国各地のフリーランスで働くママが活躍する場を創出するクリエイティブ・マーケティング会社。子育てと仕事を両立したいママのスキルを活かせるような制度を整え、女性が働きやすい環境を実現しています。
今回は、マムズラボ株式会社の代表取締役社長・佐藤にのさんに、マムズラボを立ち上げるまでの経緯や、仕事をするうえで大切している価値観をお伺いしました。

高校時代に「アウトプットで生きていく」
と決意した

― まずはじめにこれまでのご経歴を教えてください。

卒業した高校はとても自由な校風で、プロとして活躍しているスポーツ選手や演劇関係者が同級生にいたり、保護者に漫画家の方がいたりと、身近に強みとクリエイティビティが明確な人がたくさんいたんです。

私自身は、ブラックミュージックにハマって、渋谷を中心としたクラブに通うように。そうして周りからさまざまな刺激や影響を受けているうちに、いつしか「自分の頭の中のものをアウトプットすることで生きていきたい」と思うようになりました。高校時代にクリエイティブな人に多く出会ったことは、私の人生の第一のターニングポイントですね。

― 高校生の頃からクリエイティブに対するあこがれがあったのですね。高校を卒業されてからは、どのようなことをされていたのですか?

「アウトプットで生きていく」という思いを強く持ちながらも、どういった形で実現すればよいのかわからず右往左往していた時期もありましたが、その中で小さな頃から絵画が好きだったこともあり、画塾に通いました。

その後、海外文化に惹かれて一人旅を繰り返すように。20代は、トルコやパキスタン、アジアやアメリカ圏を訪れながら、絵やアルバイトを通じて現地の方と交流していました。気に入った場所には長く滞在するような旅スタイルで、現地語もなるべく覚えるようにしていましたね。このときにさまざまな世界を見て、経験したことが今の自分につながっています。

― 帰国されてからは、どのような活動をされたのですか?

夜な夜なクラブに通っていた22歳の頃、自分自身も楽しみながらイベントを盛り上げたり、取り仕切ったりする大人の姿をみて「裏方もアウトプットの一つなんだ」と気づき、企画や発案といった領域の仕事を見よう見まねで始めました。そんな中、クラブに遊びに来ている同年代の女の子たちが、少しつまらなさそうに見えたんです。せっかくオシャレをして来ているのに、心から楽しんでいる人ばかりに思えない……なぜ、つまらなさそうなんだろう?どうすれば楽しんでもらえるんだろう?と思ったのが最初のきっかけでした。そのとき、自分なりに出した答えが、“知らない場で、知らない人ばかりだからおもしろくない”という気持ちになるのではないかということ。そこでまず最初のハードルをクリアするために、音楽の知識や世界観をもっとわかりやすく伝える媒体を手掛けようと思いました。女の子や初心者リスナーに楽しんでもらう媒体を企画したり仕切ったりする人になりたいと、まずはイベンターやプロモーターを目指したんです。

それからは音楽業界に腰を据えて、音楽フリーペーパーを制作しながら、仲間と一緒に主催としてイベントを企画しました。そのうち、行列のできる満員イベントとして定着し、イベント名をタイトルに冠したコンピレーションCDシリーズを発売。CDがまだ売れる時代だったこともあり、シリーズ累計で数十万枚の実績を得ました。

こうした草の根活動を続けていたら、当時、業界支援意欲の強かった音楽会社から声をかけられ、就職しました。そこでは、イベント・Webメディア・著作権管理・レーベルなどの企画運営を担当する新事業部の立ち上げに携わり、忙しい毎日を過ごしていました。当時は、裏方に徹することができる女性が少なかったので「女の子目線で音楽を届けていきたい」という思いを強く持って働いていましたね。

妊娠、出産、子育てをきっかけに
フリーランスへ

「一人でも多くのママが幸せに働けるように」。仕事と子育ての両立を目指す原点とは_2

― 音楽会社のイベンターからフリーランスに転身したわけですが、何がきっかけになったのでしょうか?

音楽会社に入って4年目に妊娠したことがきっかけです。正直にいうと、当時、妊娠したことを素直に喜べなかったんですね。嬉しかった反面、全力で働いていたからこそ「自分から仕事を遠ざける存在を抱えてしまった……」という思いもこみ上げてきて。会社でも自分がいないと回らないと思っていた業務が滞りなく進んでいるのを見ると、「私の価値って何だろう」と悩んで自信がなくなり、自己肯定感も低くなりました。

一方で、夫や生まれてくる子どもに対して、そのように感じてしまう後ろめたさもありました。この時期は、妊娠、出産への不安もあって、ネガティブで鬱っぽくなることが多かったですね。

そんな思いもあって、出産後、在宅勤務や時短勤務を経てフルタイムで仕事に復帰。家事育児と仕事の両立を続けていました。

― 業界の風習や通例も鑑みると、子育てと仕事を両立させるのは難しかったと思います。

そうですね。両立を応援してくれたり、いろいろな気遣いをしていただけたりと、仲間との人間関係に助けられた反面、会社の産前・産後休暇の制度が整っておらず、仕事と育児の両立は本当に大変でした。音楽や制作関連の仕事は時間と場所に影響されやすいこともあり、家事育児と仕事を両立する女性ロールモデルやメンターもなかなか見つけられず、わからないことだらけで。じゃあ自分が後輩にとってのロールモデルになろう、と奮闘した時期もあったのですが、実現は難しかったです。

今でこそ女性活躍推進法があり、子育て期女性のよりよい社会進出は定着しつつありますが、当時はまだ「朝から晩まで現場に立てる」人間が求められていたように思います。働き方に関する自分の理想と現実が、ものすごくかけ離れていたんですね。結局、子どものための欠勤や早退が多くなるにつれて、会社への負担が増えることへの罪悪感が強まり、入社から5年目で退職に至りました。

「仕事」と「子育て」どちらにも
100パーセント注力できない

「一人でも多くのママが幸せに働けるように」。仕事と子育ての両立を目指す原点とは_3

― 退職後はどのようなお仕事をされていたのですか?

フリーペーパー制作や音楽雑誌での編集・ライター経験を生かして、ママ雑誌の編集部を中心にフリーランスで働いていました。

2人目の子どもが生まれた後も、「編集ライター」という肩書きでフリーランスを続けていたのですが、個人で受ける仕事は量と質に限界があり、案件の最初のほうから関わりたいと思うようになりました。そんな同じ思いを持つママクリエイターたちと一緒に立ち上げた団体が、マムズラボの原型です。

― 任意団体をマムズラボとして法人化した理由は何なのでしょう。

団体は大きくなりましたが、「メンバーやその家族を支えていくために、売り上げをスケールさせたい」という目標を達成するには、法人化が必要でした。そんなときに、SBヒューマンキャピタルの武田(現マムズラボ 代表取締役副社長)と知り合ったことが「マムズラボ」として法人化したきっかけです。

「仕事」と「子ども」、どちらも大切だけど、どちらかに100パーセント注力することは物理的にできない、というジレンマは今でもあります。だからこそ、仕事と子育ての両立を負担に感じる女性を一人でも少なくし、就労意欲のあるママの自立を支援するために、在宅勤務やフリーランスとして働く環境を整えることが、今も変わらない目標です。

「一人でも多くの人に幸せになってほしい」という思いが働く原動力に

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― どんな仕事でも続けることは大変です。特に女性は、ライフステージの変化が働き方に大きく影響します。その中で、ママになっても佐藤さんが働き続けられる原動力はなんでしょうか?

「一人でも多くの人に幸せになってほしい」という思いですね。

音楽業界時代に制作や企画をしていた頃は、「音楽を楽しんで幸せになってほしい」という考えが根底にありました。今は、「一人でも多くのママに幸せに働いていてほしい」と思っています。ただこれは、仕事をする人だけを指しているのではなく、社会に対して“はたらきかけられる”という意味での“働く”だと定義しています。

― 仕事をするうえで大切にされている信条はありますか?

頼まれたことは断らない、です。
「できない」と線を引いてしまうのは、自分の可能性にふたをすることなので、それだけはしないようにしています。

私に仕事のお話が来るのは、依頼された方が困りごとを抱えているから。その方の課題や悩みを解決することをゴールに据え、一緒に解決までの道を歩ませていただきたいと思うんです。すぐに解決方法が浮かばなくても一緒に考えることができますし、これまでにない方法にも挑戦すればいい。「ゴールがあれば、どのような道筋だって描ける」と思って仕事をしています。

― これまで多くのことを経験されてきて、「課題」にぶつかったことはありますか?

大変だったことはたくさんありますが「課題」と感じたことはありません。生きていて、おそらく、答えを得られないことはほとんどないと思うんです。これだけ情報があふれる社会で、真剣に探せばどこかに解決の糸口はあるはずだと。もしなにかうまくいっていない事があるとしたら、情報収集不足や人の意見を素直に聞けない心のゆがみといった原因が、何かしら自分の中にあるような気がします。

― 女性が社会で働くには、男性とは違う「強さ」が必要だと思います。女性が「強さ」を育むにはどうしたらよいのでしょうか?

私は、”自分ルール”として「好きなことを貫く」「周りの人間を守る」「言い訳をしない」ことの3つを大切にしています。それから、良い仕事をする人は「責任感があり、約束を守ることができる人」ではないかと。社会からの評価を得ることを目標にするならば、例えば「納期は必ず守る」「メールは●時間以内に返す」など、必ず守りたいルールを、自分に課してみるといいかもしれませんね。

ただし、自分ルールの内容は人それぞれ違うので、周りの仲間とお互いの価値観を尊重していくことがとても大切です。
 

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― お話を聞いていると、佐藤さんの価値観には、家族や仲間、周囲への愛情が深くからんでいるように感じます。どうやったら、佐藤さんのようになれるのでしょうか。

人でもコトでも良いのですが、自分以外に、必ず守るべき対象をつくることだと思います。私の場合、それが子どもと家族でした。同じようにマムズラボの仲間も、「仕事をするからには、やりがいと責任をもって働いている背中を子どもに見せられる自分でいたい」と思って働いているママが多い印象です。メンバーには男性やお子さんのいない女性もいますが、「守るべきもののために仕事をする」というスタンスは共通しています。

― なるほど。そうした佐藤さんの働く価値観や姿勢がつくられた「原点」はありますか?

サービスエンジニアである父の影響は強いと思います。仕事が忙しかったのに、私が投げかけた疑問や不満を解消するために一晩かけて対話してくれたり、自分の考えをしたためた長い手紙を書いてくれたりする人でした。父の言葉で印象に残っているのは、「人生は二者択一だ」というもの。「一つの可能性を選んだのなら全力でやる。そうじゃないと、選ばなかったもう一つの可能性に対して失礼だ」と。この教えは、「好きなものを貫く」「大切なものを守る」といった、今の私の価値観につながっています。

そうして家族や仲間といった周りの人たちに、素直な気持ちで接してきたから、今の私もマムズラボもあります。私は、自分よりも周りのみんなが大事です。その人たちを守れるような“はたらきかけ”を、これからも続けていきたいと思っています。